結婚

女の人生劇場「いい恋をありがとう」

夕食の買い物を終えた帰り道、里香はふと見上げた空の色鮮やかな

夕焼けに目を細め、小さく呟いた「あの日の夕焼けも、こんなだったな。。。」

あの日って、どの日だっけ。

口元に緩やかな笑みが広がる。いくつも思い出があるなんて、私ってお気楽だな。

10年前の夏、学生時代からの恋人との恋が終わった。

お互いに嫌いになったわけじゃないのに、ときめかない。

この恋もご臨終かな・・・・ふざけて言った言葉にせつなくなり、わざと明るく

笑ってふたりは別れた。

仕事が面白くなった分、それぞれの世界が大きくなる時期だったのかなと、

今なら思える。

あの日の空には、きれいな夕焼けが広がっていた。

別れて初めての週末は、思いっきり泣いた。

泣くだけ泣いて、里香は、張り切って仕事をしちゃおう、

前から欲しかった車の免許も取っちゃおうと、

弱くなりそうな気持を自分で励ますことを覚えた。

もう少しで免許証を手にいれられるようになったころ

同期の矢沢君から社内メールが届き、食事に誘われた。

へぇ~?

と里香は思った。

特に親しいわけでもないのに。

でも、うれしかった。久しぶりのデートに心が浮き立つ。

そっか、やっぱり私は寂しかったんだ。

ほんとは、課長の島崎さんに憧れてる。

だけど、島崎さんは結婚してるもんな。

今度は、里香が矢沢君を食事に誘った。

なんとなく、恋が始まった。

西窓から、きれいなオレンジ色の光が差し込んでる。

その矢沢君と結婚するなんてね。

また口元が微笑む。

結婚しようか、と照れてそっぽを向きながら矢沢君が言った日も、

空にきれいな夕日が浮かんでいた。

ママママ、今日もパパは遅いの?

子供の声に、にっこりとなる。

ねぇ、パパと今度いつ遊べるの?

恋なんて、わかんないものだなと思う。

いつか大学時代の友達で集まったとき、

友人の恵美にこういわれた。

里香は昔から変わらないのね、そうやって小さな恋をしてるのが似合ってる。

ひょっとしてバカにされてるのかなと思った。

だけど、なんとなく始まった恋が、すごく大事な恋になった。

どの恋も、私にとっては大切な恋だ。

いろんなこと教えてくれたし、素敵な想いだってした。

ちょっとイジワルしたくなった里香は、恵美に言った。

恵美はいいね、大恋愛の思い出があって。

言った瞬間、後悔した。

自慢話を始める恵美の顔に、一瞬、痛そうな表情が浮かんだのが見えた。

窓から差し込む光が弱くなっている。

子供はパパパパと言い続けている。

このところ、矢沢君の帰りが遅い。

日曜まで仕事だなんて、がんばっちゃってるんだ。

ひょっとして浮気?

まさか。

そんなことはない。

あっても一度なら、許してあげてもいいよ、なんてね。

結婚する前にも、矢沢君が浮気してるような気がしたことあったっけ。

でも知らん顔してたら、ヤケに優しくなって、またいつもの矢沢君に戻った。

口元に微笑みが広がる。

まだ私、心の中では、矢沢君なんて言ってる。

なんか私って恵まれてるな。

里香は思う。

いい夫がいて、あったかい思い出も心の中にいっぱいある。

里香35歳。小さな恋にありがとうって。。。


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